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べんきょうき

勉強記

坂口 安吾

「文体 第二巻第五号(五月増大号)」1939(昭和14)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,952 字 · 36 页

青空文庫

その頃の按吉の日記の中の文章である。

外は晴れたる日なりき

今日も亦チベット語を吸いて帰れり

この二行詩はいくらか厭世的である。先生の放屁にあてられて、彼は到頭思わぬ厭世感にかりたてられていたらしい。按吉はこの二行詩が出来上るまで詩というものを作ったことがなかったのである。ところが彼はこの時俄かにこの世には散文によっては表明しきれない何物かが在ることを痛切に知ったのである。即ちチベット語と屁の交るところの結果の如き、これは散文の能力によっては如何とも表明することが不可能ではないか。こうして彼は意外にもチベット語と屁の交るところの結果から詩の精神を知り、また厭世の深淵をのぞいた。人間は、どこで、何事を学びとるかまことに予測のつかないものだ。

この伝授がもう一年間もつづいたら按吉は厭世自殺をしなければならないような結果になったかも知れなかった。ところが、ここに天祐神助あり、按吉は一命をひろったのである。

天祐神助は先生が童貞を失ったことに始まる。先生は花の巴里に於てすら童貞を失わず、マレーの裸女にも目を閉じて、堂々童貞を一貫し無事故国へ辿りついてきたのに、こともあろうに凡そ安直な売春婦を相手にして、三十数年の童貞をあっさり帳消しにした。