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かたずば
勝ずば
岡本 かの子
「新女苑」1937(昭和12)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,991 字 · 15 页
そうして陰性な母よりも、貧乏で利己主義な父よりも、無性格のように弱い姉よりもずっと頼母しく自分を愛して呉れる叔母の愛撫のなかで今一度少女の幸福を味わってから死んで行き度い。こういう気持ちが政枝の心に強く蘇った。
政枝は日当りの良い八畳の二階に寝ていた。顔は高熱に上気して桃色に燃えていたが、眼の縁、口の周り、頬の辺りなど、いつのまにか淡墨色のくまどりが現われて、大人の女の古びやつれたような表情に見えていた。用を失って萎えた政枝の手足は、多可子がそっと触ってみると小猫の手足のように軽くてこたえがなかった。多可子はこの病には若くて瑞々しい者ほど抵抗力がないと云った医師の言葉を思い出して暗然とした。
政枝にはいろんな事が気になった。今日も裏の材木堀の向うに在る製板所の丸鋸が木材を切り裂き始めた。その鋭い音が身体に突き刺すように響いた。すると今までうとうと眼を閉じていた政枝は「ああ」とうめいて両手で耳を塞いだ。そして、
「早く戸や障子を締めて下さい」
と叫ぶので多可子は急いで戸と障子をしめてから政枝の傍へ戻って来て坐ると、政枝はまだ耳を圧えたまま、多可子の方へ振り向いて調子のとれない変な声で訴えた。