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じゅうねんのおもいで

十年の思い出

宮本 百合子

「文章倶楽部」1926(大正15)年8月号

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,123 字 · 7 页

青空文庫

私は小説を書くことが好きでもあり随分根気のいい方ですから、幾度も書き直しもします。誰でもいうように初めの書き出しは一番苦心します。百枚以上のものでしたら、初めの二十枚位、短かいものでも三四枚は、やはりその一篇の足場になるところですから、書き出しの具合でどうにも筆が伸びなくなることもあります。しかし、いわゆる文章(描写?)には余り拘泥しません。私のはいつも、ある材料について、その対象をいかに巧く書くかというのではなく、いかに見、いかに感じたかということが主眼なのです、そして表現は自らそれに伴なってくるものという考え方です。そういう点、里見さんの「内容と表現」というあの言い方がうなずけます。つまり才能的な技巧的な文章でなく、その人の持つ本質的な文章という意味です。

今のところいわゆる心境的なものばかり書いておりますが、或る時期がくると、戯曲など書いてみたくなりはしないかと思います。そういうのは極めて自然な気持で、人生に対する見方や、気持の上に、あるいい意味での余裕ができた時に、そういう興味が起るもののような気がします。自分にもいつかそんな時がくるかも知れないし、やってみる場合があるかも知れないと思われます。