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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

としずかな調子で云った。扉にかぎをかけた時Hは、

「考えずにおやすみなさい」といたわる様に云って一寸千世子の背に手をかけた。千世子はまっくらな室へ、Hはうす赤くローソクのガラス越に光って居る部屋へと、まるで違った気持で別れた。

(二)

寝間着を着て床に入りは入っても枕の羽根がかたまってごつごつして居たり、毛布がずったりして千世子は落ついた気持になる事が出来なかった。寝なくっちゃあならないと思って眼を閉じるとうすいまぶたをすかして五色の光りものが目先をとんで廻った。耳なりがするそうぞうしい音の中にヘッダの科白が浦路の声でひびいて来ると思えば鴈次郎の紙治のまつわる様なこえがひびいて来る。今日までよんだ本の中で良いと思って居たところがキレギレにうかんで来る。

千世子の頭中にたまって居る不平やら疑問やらがぬけ出して来てゾロリっとならんで一つ一つが、

「ヘッヘッいかさま……」

と云ってひっこんで行ったり、もうどうしていいかわからなくなって来た。ムックリと床の中に起き上って手をのばしてテーブルの上に置いてあるひやっこいお茶をのんだ。

「まるで年寄のする事を私はして居る」