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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

源さんが笑いながらかたごしに譜をのぞくのに千世子は斯う思って「眼の囲りの筋を一本だってゆるめやしない」と云った様にとりすまして居た。

夕飯の手伝いを云いつけられていやなかおをした働きぎらいの千世子は八時頃になって、

「お先きへ――私気分が悪いからもう寝ますわ、あしたは学校に多分行きましょう」

こんな事を云ってじきにねてしまった。

翌朝夜が早かったんで五時頃に起きた。又例の寝間着のまんま西洋間に行って火にあたりながら歌を読んで居た。

七時頃っから千世子は本をしまって学校に行くつもりで仕度しはじめた。着物を着かえて時間割を見ると数学。いかめしい字で千世子にかみつきそうにがん張って居る。

「いやんなっちまう、せっかく行こうと思えば」

うらめしそうにその字をにらみながら千世子は迷った様な様子をして立って居た。

「止めよう、こんな気持で行ったって何が出来るんだ」

なげつけた様に云って又西洋間にもどった。歩きながら、

「阿母さんが、『お前はいくじなしだよ、ほんとうに一寸も我まんがない』っておっしゃるだろう」

こんな事を思って妙な笑い方をした。

Hのわきに腰をかけて何のわだかまりもない様にスースーと引けて行く線を一日中見て居た。