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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

田端の停車場に行く間幾度も幾度も空を見上げてHは、

「いい日ですネエ、歩くのにつり合ってますネエ」

といかにも気に入ったらしい口つきで云って居た。

千世子はいつもほどしゃべらないで白い足袋のつまさきで小石をけとばしたり、Hのかるそうな洋服すがたと源さんのマントを着た大きな影をちょいちょい見くらべたりなんかして歩いた。

割合に山の手はすいて居たけれども真向いに居る一人は二十五六の、も一人は二十位の女が悪ずれした目つきをして二人の間にはさまれてツンとして居る千世子の風の変った髪やじみはでな着物の着こなし方なんかをわざわざきこえる様に批評するのが気にさわってたまらなかった。千世子は「何がたか……」と思い上った様な目つきをしていかにも矢場女らしい鼻ぴくなかっちまりのない顔をジーッと見つめた。

向うの女も始めは、

「何だ! 生意気な世間知らずのくせに!」

と云った様に見返して居たけれ共、千世子の神経的な目を見つめて居られなくなってフッとわきを向いてつれと顔を見合わせた。千世子は勝ちほこった様にうす笑いをして肩をゆすった。

「どうしたの? かんしゃくを起した様な」

Hは源さんとして居た話をやめて千世子にきいた。