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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

笑いそこねた妙にはばったい口元をしてはなれて歩いた。

Hも又「さっきは私がわるかったからサ、もう仲なおりネ」

とは云いにくかった。二人はどっちか早く「もう」と云い出して呉れればとまち合って居た。

千世子は歩きながらHの様子を見た。ふっくりと柔味のある光線をうけてしおらしげに耳朶やくびすじはうす赤にすき通って居た。時々気にしたらしくまっくろな髪を上げる小指の先が紅をさした様に色づいて居るのや、まぼしいほど白い歯がひかる事なんかを千世子は見つけて思わずうす笑いした。

「私はあの人のあの娘みたいなきれいなところどころに免じて私から仲なおりをしよう」

わだかまりない気持でこんな事を思った。人が違った様に顔中笑を一っぱいにして二人のそばにかけよった。

三人はかおを見合わせて何とも云えないほどいろんな感情の入りまじった笑い方をした。そしてお互にさっきの事には小指の先でもさわらない様にいくえいくえにもおしつつんで心のすみの方につくねて居た。

千世子がさっき不きげんな様子をしてから源さんの様子はよっぽどうちとけて来たのを知った千世子は何だか源さんのためにわざわざ自分が怒った様な、又その時をうまく利用された様なだしぬかれた気持になった。