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ちよこ(さん)

千世子(三)

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,906 字 · 54 页

青空文庫

肇は赤い柱の下に立って篤の手をさぐりながら云った。

「ねえ君、僕達はもう二十年近く親しい友達で居たんだよ、

ねえ君――

二十年近くもさ――

「ああ――二十年近くになるねえ。

「でも僕は一番初めどうした事からこんなに仲よしになったんだか今だに分って居ない。

「そんな事、さがそうとするもんじゃあないよ。

「ああ、ほんとうにさがすもんじゃあない。

肇は何かひどく亢奮して低いふるえを帯た声で云った。

すいた電車に乗って二人は一っかたまりになってだまって居た。

肇は、今日始めて会った人の事について考え、

篤は自分のわきにぴったり座って居る肇の事を思い、電車は闇をかきわける様にしてつき進んだ。

丁度二人が電車に乗った頃千世子はふくふくの布団にくるまりながら自分で自分をねかしつける子守唄をうたって居た。

(四)

夜の眠られない晩が十日もつづいて千世子はとうとう床についてしまった。

私はまあほんとうに四月と五月の月に呪われて居るんだ。

青い眼のくぼんだ誰が見ても不愉快な顔つきをした千世子は甘苦い様な臭剥を飲みながらこんな事を云った。ふだんにまして気むずかしい機嫌を取りそこねて女中が一日中びくびくして居なければならない様なのもその頃だった。