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ちよじのおどろき

千代次の驚き

豊島 与志雄

「文学界」1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,413 字 · 19 页

青空文庫

お座敷着のままふとんのまんなかに坐ってるあたしが、こわかったのでしょう、松若さんがそっとのぞきに来て、またおりていったのを、ぼんやり覚えています。

それから暫くして、あたしはとびあがって、窓を引開けました。たしかに、村尾さんが外に来ています……。村尾さん、みんなあの人だったんです。お座敷では、しっかりした冷淡なほどの素振をしながら、一人で、あたしの家の前をうろついていたんです。全く別々なその二人が、じつは一人だったんです。まだ、誰に遠慮もなく逢えるのに、どうしてそう二人になるんでしょう。嫉妬……真心……恋……ばかりでもない。あたしが何もかもうっちゃって進んでいかなかったのが悪かったのかしら。そんなわけはない。そんなら、なぜ向うからもそうして下さらなかったのかしら。あたしが芸者なんかしてるのがいけないのかしら。それでも、あたしだって……。窓からすかしてみると、表の通りは、しいんと薄暗くて、向うになんだか、村尾さんが……。やっぱりそうなんだ。あたし心の底から、びっくりしてしまって、のりだしてよく見ようとすると、とたんに、窓枠の木が外れて、身体が宙にとんでしまいました。