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ちよじのおどろき

千代次の驚き

豊島 与志雄

「文学界」1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,413 字 · 19 页

青空文庫

それが、だんだんはっきりしてきましたし、しつっこくなってきました。家の近くを、夜遅く、変な人がうろついていた……家の横手で、変な人が立聞きしていた……そういう噂を、ちょいちょい聞くようになりました。また、夜中の一時二時頃、誰からともなく、あたしに電話がかかってきました。千代次さんはいますかと、きまってそうなんです。いない時には、そうですかとだけで、切れてしまいますし、いる時にも、そうですかとだけで、切れてしまいます。どうも、お出先からの電話じゃありません。それが、女の声だったり、男の声だったりします。電話に出るのは、たいてい仕込さんですが、あとでは、あたしが待ちうけていて出てみましたが、そうですかとだけで切れてしまうので、ばからしくなりました。

そうしたことから、だんだん、あたしをつけねらってる者があるということが、分ってきました。うちのねえさんは心配して、心当りがあるかどうか、あたしにたずねましたが、全く覚えのないことでした。あたしこれまでに随分、いろんな男の人を知ってはいましたが、どれもただ、稼ぎのためだけで、お父さんの教えの通り、心を移したことはありませんし、したがって、だましたとか、不実なまねをしたとか、とにかく、怨まれるような筋合のものは、一つもありませんでした。