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ちはやかんのめいろ

千早館の迷路

海野 十三

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页

青空文庫

そして寝る部屋はおろか、住む部屋さえ見当らないということよ」

「じゃあ現在、誰も住んでいないんだね」

「魔性の者なら知らぬこと、まともな人間の住んでいられるところじゃない」

魔性の者? 横で聞き耳を欹てていた春部は、どきんとした。

「ねえお婆さん。千早館を見物に、同じ女がちょくちょくやって来るのを知らんかね。背のすんなりと高い、顔の小さい、弁天さまのような別嬪だが……」

帆村は、ちょっとかまをかけた。

「ああ、あの女画描きかね。あの女ならちょくちょく来るが、ほんとに物好きだよ。物好きすぎるから嫁にも貰い手がなくて、あんなことしているんだろう」

「その女画家は、千早館に泊るんかね」

「いいや、聖弦寺に泊るということだよ。聖弦寺というのは、千早館の西寄りの奥まったところにあるお寺のこんだ」

「寺に女を泊めるのかね」

「なあに、住職なしの廃寺だね。そこであの女画描は自炊しているという話じゃが、女のくせに大胆なこんだ」

「お婆さん。その女画家から何か貰ったね」

「と、とんでもねえ。わたしら、何を貰うものかね、見ず知らずの阿魔っ子から……」

帆村は軽く笑んだ。

「私もお婆さんにいろいろ聞いたから、お礼にこれをあげよう」