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ちはやかんのめいろ

千早館の迷路

海野 十三

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页

青空文庫

そのうえいうべき別の言葉を互いに持合わさなかったからである。

が、二人が黙してから間もなく、帆村は愕きの表情になって、突然口を切った。

「あ、気のせいだろうか。地鳴りがしたようだが……。春部さん、あなたは今、地鳴りを聞きませんでしたか、地鳴りでなければ、エンジンの唸りを……」

「なんだか聞えましたね。でも、わたくしは奏楽だと思いました」

カズ子は眉をあげて帆村の顔を見上げた。

「奏楽ですって……。はてな、もうなにも音がしないようだ。ふしぎだな」

「わたくしにも、もう聞えません」

「さっきは確かに音がしたんだ。どういうわけだろうか」

二人は気味わるさに、背筋に水を浴びたように感じた。

もしもこのとき、二人が千早館の表側に立っていたとしたら、彼らは意外の収穫を得たであろうに……。それは二人の不運だった。

だから、それからしばらく経って二人が本館の正面へ廻ったときには、或る事はもう終っていて、何の異常も存しなかった。二人はそこで一先ずここを去ることにして、元の塀の崩れたところから外へ出た。

「あれをごらんなさい」と帆村が洋杖をあげて、裏口に近い塀の傍に立っている電柱を指した。