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ちはやかんのめいろ

千早館の迷路

海野 十三

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页

青空文庫

それから一つの角を曲ったとき、急に例の音楽の音が高くなった。と、その通路は、今までの通路とちがい、ずっと明るさを増した。帆村は、注意の言葉を春部に囁く代りに、彼女の肩を軽く叩いて警戒せよとの合図にした。

二人の歩調は極度に緩かになった。帆村は全精力を前方に集中している。比較的明るい光が前方の左側から来ることが分った。そのあたりで左へ曲る角があるらしい。しかし右側はそのまま壁が前方に続いていた。その明るさは、雪の降ったような白っぽさがあった。

(あそこまで行けば、必ず何かある)

帆村は洋杖の柄を握りしめ、いつでもそれを繰出せるように身構えて歩を進めた。

とうとうその角まで来た。

「呀ッ!」

その角のところで、左側へ目を向けた帆村は思わず驚愕の声を放った。何となれば、そこには全く想像も及ばないほどの奇妙な有様が見られたから。

まず何よりも目をひいたのは、その角から左へ切れ込んで、十尺ばかり奥で壁に突当っているその狭い横丁――幅は今までの通路の半分にあたる三尺ほどの狭さだった――。

その横丁の左右の壁の異様な構成だった。その壁は左右とも、人間の眉の高さあたりから床までが硝子ばりになっていて、その中に大きな金魚がゆったりと尾鰭をゆすぶって泳いでいるのだった。