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みなみさんのこいびと
南さんの恋人
豊島 与志雄
――「小悪魔の記録」――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,630 字 · 36 页
登美子は三人の若い会社員のところで、はしゃいだ口を利いていた。あちらこちらに客があった。だが、おれは一体、このカフェーなるものが嫌いだ。天井にはいろんな色彩を張り渡してるくせに、方々の隅がへんに薄暗く、植木までどっさり持込んである。そしてあちこちの、金網がないだけの動物の小屋みたいなところで、男や女がひそひそと話をしている。女たちは血色がわるく皮膚は荒れ、男たちはどれもこれも、疲れたような、退屈なような、或は物欲しそうな顔をしている。第一、この緑素の少いしなびた植木がいけない。これを見てると、大抵の者は憂欝になるだろう。同じカフェーでも、見通しのきくぱっと明るい広間ならまだいい。明るくなくっても、ダンスホールなら動きがあるから面白い。おれは二階のあるホールで、手摺に両肱をついて見下すのが好きだ。
その時、いい考えが浮んだ。おれは往来に面した窓の方へいって、下の街路を眺めた。裏通りで、人通りは少く、薄暗かったが、それでもいくらか面白い。そして眺めてるうちに、その窓口の上で、ついうとうとと居睡ってしまった。
随分時間がたったらしい。おれは眼をさますと、もう酒にもくたぶれてる南さんのところへいって、帰りを促した。