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みなみさんのこいびと
南さんの恋人
豊島 与志雄
――「小悪魔の記録」――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,630 字 · 36 页
雨滴が木の葉をすべるような、少しの無理もない流れ方だった。それからやがて、彼はうとうとと眠ってしまった。
一時頃、南さんはほんとに起きあがった。こんどは、眉をしかめ、ひどく不機嫌そうな顔付だ。宿酔のせいもあったのだろう。彼は室の中を少し歩き廻り、冷い水で顔をごしごし洗い、面倒くさそうに洋服に着かえ、窓のカーテンをひきあけ、円卓に片肱をつき、ビールをのみまた煙草をふかしながら、窓からぼんやり空間を眺めた。
そこで、おれはその耳に口をよせて、ひそひそ囁いてやった。――「どうです、昨夜のこと、覚えていますか。よく分らないのも、無理はありません、随分酔ってましたからね。彼女が帰っていったのが分らないなんて、そこまでいけば、確かなものですよ。これでもう、満足でしょう。どうです、わたしが云った通りじゃありませんか、徹底的にやっつけちゃいなさいって……。気持がさっぱりしたでしょう。なあに、頭が重かったり、多少の憂鬱があったりするのは、二日酔のせいですよ。それに、今日はあの通り曇ってもいますからね。今に、雲が切れて……まあ夕方ですね、赤い夕陽がぱっとさして、そして千疋屋で林檎でもかじってごらんなさい、頭の中も、胸の中も、さっぱりと晴れてしまいますよ。