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みなみさんのこいびと

南さんの恋人

豊島 与志雄

――「小悪魔の記録」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,630 字 · 36 页

青空文庫

その涙が後から後から出てきて、しまいに止んだ頃には、なんということだろう、南さんはもううとうと眠りかけていた。その寝顔を、山根さんはじっと見ていたが、大きく溜息をついて、それから南さんをむりやりに起し、二階の寝室につれていった。

おれはそこに残って頭をかいた。――どうやらおれの童話は失敗らしい。おかしな人たちばかりだ。あんな恋人ってあるものか。それに、山根さんの着換えは更に訳が分らない。然し、まだどうなるか分ったものじゃない。おれには少し腑におちないことが多すぎるんだが……まあいいや。

おれは正夫の寝てる奥の室に行ってみた。

正夫はすやすや眠っていた。おれがその額に接吻してやると、少しきつすぎたか、正夫はぱっちり眼を開いた。

「どうして眼をさますんだい。」

「なにか、へんなものが来たんだよ。」

「夢だろう。」

「夢なんか、僕はみないよ。」

「なぜだい。」

「知らないや。よく眠るからだろう。」

「夢をみたかないかい。」

「みたかないよ。」

「なぜ。」

「みたってつまんないよ。眼をさますと、すぐに消えちゃうよ。」

「眼をさましても消えないようなものが、何かあるかい。」

「あるじゃないか。