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なんぽうゆうしん

南方郵信

中村 地平

「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页

青空文庫

そして、澄んだ細い眼でささやきかけるのである。

「なあに、腹ごなしに、ちょっと、ひと汗かいただけの話ですさ」

豆腐の粕と薩摩芋の蔓とが、山羊夫妻の大好物である。豆腐の粕はまだ三太が床のなかにいる時分豆腐屋から毎朝一個ずつ規則的に届けてくれる。しかし、薩摩芋の蔓は時折り、誰か若い衆が野良へ行って、買い集めて来なければならない。

豆腐の粕を配達するのは、お浜の任務である。お浜はひどく嬉しそうに、その任務を受けもっている。豆腐屋から少しばかりの賃金が貰えるからでもあるが、それよりか長友先生に会う機会が多くなるからである。

湯気のたっている小さなザルを胸のなかに抱くようにして、お浜はまだ人通りの少い裏の川岸づたいに、旦那の家へ毎朝やってくる。紺絣の着物を引きずりながら、裏門からのっそりと入ってくると、お浜はザルを黙ってぬっと爺さんにさし出す。爺さんは大抵倉庫の扉を開けに廻っているところであるが、ザルを笑いながら受けとると、腰に錠前をじゃらじゃらさせながら、山羊の檻のなかへ入って行く。そして、ふちの欠けた摺鉢のなかへ粕をぶちまける。山羊は「ミイ、ミイ」啼きながら、夫と妻と競争で鉢の中へ頭をつっこむ。