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なんぽうゆうしん
南方郵信
中村 地平
「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页
尤もこの地方の百姓たちで、もしそれがあきっぽい性格なら、百姓をやめて他国に移住するか、自殺でもするよりか仕方がない。この地方の百姓の生活といえば、丁度川がながれ来たり、ながれ去るのに似ていて、全く単調で、変化というものがないのである。
ある午後――
牧の旦那は菜の花畑から騎首をめぐらして、夫婦池の傍らへと出た。
池は椎の樹だちに包まれているが、樹の下径は薄暗く、いつも湿っていて、トヨの蹄の音は土のなかに吸いとられてしまう。辺りには物音ひとつしなかった。樹だちの幹の間から、源吉爺さんが、ふと池の面を眺めると、水の上には季節外れの鴨が三羽降りていた。
中の一羽は静かに羽根を畳み、悠々とながれるように泳いでいたが、他の二羽はなにか餌でも見つけたのであろう。思いきり首をのばし、ひどく大きく見える翼で、はげしく水面を叩きながら、滑走していた。
源吉爺さんは、ふっとあることを思いついたが、歩きながら、旦那の方はふりむきもしないでつぶやいた。
「旦那。うちで家鴨は飼いなさらんか。裏の川にはなして置けば、なんの面倒も要らんですど」
しかし、旦那はまるで爺さんの言葉は耳に入らないように、放心した顔つきをしていた。