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なんきょくのかいじ

南極の怪事

押川 春浪

「中学世界」1905(明治38)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,508 字 · 33 页

青空文庫

波とともに、たえずゴトンゴトンと舷にあたるものあり、難船の破片か怪獣か、なんにしても訝しき事よと、余は恐くはあれど再び甲板に出でて見れば、天地は依然として昼とも夜とも分らぬ光景なり、余は吹き来る暴風に吹飛ばされてはたまらず、また打上ぐる波に呑去られてはたまらずと、海賊の巨魁が身を縛して死しいる大檣にシカと縋付いて眺むるに、暗憺な海上には海坊主のごとく漂える幾多の怪物見ゆ眼を定めて見れば、怪物と見えしは、これ小舟のごとき多くの氷塊なり、この氷塊の流れおるを見ても、船のすでに南氷洋の奥深く来りし事を知るに足らん、大氷山ははやまぢかなり、地球の果ははやまぢかなり、余はいかにもしてそこに到らぬ前に船を停めんと苦心焦慮せり。オオこの風! この風! この風を孕む大檣の帆をすら降さば、船は停止せぬまでもその進行緩かにならん、進行の緩かとなるは、それだけ余の死期の遅くなるゆえと、余は仰いで大檣の帆を眺めしが、帆は高くして張り切るばかり、帆綱さえ激しく檣桁に巻きつきたれば、元来水夫にはあらぬ余の、いかでかこの大暴風に帆を降す事を得べき、熟練せる