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なんがをかくはなし
南画を描く話
中谷 宇吉郎
「中央公論」1941(昭和16)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,968 字 · 24 页
大事にし給え」と言われた。岩波さんは残念がって「君がそれを専有するのは少し怪しからん。僕にくれないか。そうすれば皆に見せられるから」と言われたので、慌ててしまいこんで伊東へ逃げ帰った。
こういう掛物は三日以上かけ放して置いてはいけないということなので、時々かけて見ては独りで喜んでいるうちに、とうとう自分でも何か描いて見たくなってしまった。そして本当に始めてしまったのである。
初めに描いて見たのは、雪の結晶の絵である。この題材は後から考えて見ると、なかなか巧いものを選んだものと自分にも思われる。第一今までに余り知られていない型の結晶を描いておくと、少しくらい口の悪い連中に見せても「へえ、こういう結晶もあるかね」と、その方に気をとられるという利得がある。その上、雪に興味をもっている人たちに見せると、大抵は一枚欲しいものですねと言ってくれる。
もっともそれもこの頃のように、少し絵らしくなってからの話であって、初めに描いて見た頃は、どうにもならないものであった。淡墨でしかも相当墨を淡くして描く方が有利であることは直ぐ分ったが、それでは沢山の結晶を並べると、余り単調になる。