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なんばんひわもりうこんまる

南蛮秘話森右近丸

国枝 史郎

「少女倶楽部」1927(昭和2)年4月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,869 字 · 112 页

青空文庫

「はい」と云ったが吃驚して、民弥は老人の顔を見た。「よいお天気でございます」

「お寺参りでございますかな」こんなことを云いながら、老人は並んで歩き出した。

「あの、いいえ、人を尋ねて」

「おやおや左様でございましたか、どなたをお尋ねでございますな」

「はい、若いお侍様を」

「ほほう、成程、お侍様をな、で、どういうお方なので?」

何となく老人は訊くのであるが、勿論心中ではよくないことを、きっと巧らんでいるのだろう。

「大事なお方なのでございますの」民弥は釣られて話して行く。

平素の民弥なら迂闊と、こんな見知らぬ老人などと、話しなどするのではなかったが、今は心が茫然している。で、うかうかと話すのであった。

お腹の減っている者は、決して食物を選ばない。水に溺れている者は一筋の藁さえ掴もうとする。民弥の心は手頼りなかった。誰であろうとかまわない、親切に話してくれさえしたら、その人に縋って助けて貰おう、そんなように思っているのであった。

「成程々々、大事なお方で。……何というお名前でございますかな?」

「森右近丸様と申します」

「おやおや左様でございましたか。それはまことに幸いで、そのお方ならこの老人が居場所を存じて居りますよ」