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なんろ

南路

宮本 百合子

「太陽」1922(大正11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页

青空文庫

眼尻や口辺に漂う表情から見ても、五十より下には感じられない。

これに反して、婦人は、自分よりも若いほどに見え、どことなく臆病に余り趣味も豊かでない服装で広い軍服の背後に跟(つ)いて行くのである。

ふとしたことから、彼等が、あの瞳の碧い嬰児の両親だと知ると、私にとってその Trio は、更に感銘の深い一つの絵となった。

日に焦げた頬の色から推察すると、彼も、仏蘭西(フランス)の戦線から帰国して間のない軍人なのだろう。

そこで彼はあらゆる瞬間に生命を賭けて来た。今は死なない。然しこういう刹那に死んでいるかもしれない。無数の人間が殺されて行く。人類に本能的な、平安、幸福、希望の輝を皆圧し伏せて、恐ろしい、惨忍な光景に眼を据え、手足も抗し得ず“No man's Land”に流しこまれる心持は、堪らないものだろう。

肉体が弾丸に射られ、刺される前に、先ず精神があらゆる虐殺を受ける。一方からいえば、肉体の苦痛、感覚的な苦悶というようなものは、極度に達すれば、意識を不明にさせる点で凌ぎ易いものだ。然し、心の苦しみは、死ぬまで持続する。今、死ぬか? 今死ぬか? しかも死なないで、また一日の、暗い、底の知れない不安が新たになる。