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なんろ
南路
宮本 百合子
「太陽」1922(大正11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页
建物も、高塔も、皆、人間の、金持になりたい、世界一になりたい、という絶間ない欲求の上に生えているような気がする。実に明かな、確かな、しかも蜃気楼であるというような心持がする。
一朝何かことがあって、幾百万という住民が死に絶えたら、これらの壮大な建築物は、その基礎石にたとい一厘の動揺を与えられないでも、消える人間の気息とともに、消滅してしまうかと思われる。それほど、市街自身も生物なのだ。日光を照返す金色の尖塔(ピーク)も、屋根の平たい四角な事務所建築も、厖大な紐育という一生物の体内で何等かの機能を司っている。吸収し、排泄し、住民は自分等が各々日々の生活を安全に支配していると思っていても、実は、麻酔的な都市の威力に制せられ、我以外のものの血液循環によって、知らず識らず体温を保っているようにさえ感じられるのである。
一旦この市に指の先でも触ったら、人はもう、「紐育人」以外の何者でもあり得なくなってしまうのではないだろうか。
こんなに生々しい感銘をもって来ると、華盛頓は、自分に古い画廊のような印象を与える。
実際の人はもう百年も昔に死んでいるのに、肖像画と姓名と、官位と邸宅とは、今もその当時のように生きて、権利を持っている。