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なんろ
南路
宮本 百合子
「太陽」1922(大正11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页
暗緑色の場席には、疎な人影ほかない。片側には日除けが下りている。午後の静かな窓から、私共は、今迄とまるで異う小刻みな動揺を体中に感じながら、言葉寡(すくな)く外景を眺めているのである。
鋼のように瘠せ枯れた雑草が、蓬々(ほうほう)とほおけ立っている空地に、赤錆びた鉄屑が、死骸のように捨て重ねてある。
今にも崩れそうな無人の荒れ果た小工場、真青に藻の浮いた水溜り。ちらりと、襤褸(ぼろ)の干し物が眼尻を掠める一(ワン)ブロックも占めていそうな大工場から斜に吹き下す黒煙の下で、腕ぎりのブラウズに袴の女が、拳を腰の左右に当てがい、破れた露台に立ってこちらを眺めている姿などが、カッと隈ない西日の中に、小さくはっきり、瞬間の視線を捕えるのである。
窓に倚(よりかか)り、黙って外を眺めては、折々互の工合を訊き合っている我々の様子を、若し想像して観たら、いかにも去ろうとする大都会の一瞥を惜んでいるように見えたかもしれない。
実際、少くとも私にとっては、また何時来るか分らない都市を今、去ろうとしているのであった。が、黙っているのは、その別離の哀愁に胸を圧せられたためではない。