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いんしょう
印象
小酒井 不木
「新青年」博文館、1926(大正15)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,142 字 · 17 页
家内は御承知のとおりの、ひどいヒステリーでして、私を病室の中へ入れることを断然拒んで、とても手がつけられません。これまで診察を受けて居た内科のDさんさえ、今日は寄せつけようとしません。どうしてもあなたでなくてはならぬそうです。Dさんのお話では、病気が急に進んだから生命が非常に危険であろうとの事です。どうかまあ、何分よろしくお願い致します」
とT氏は、心配そうな顔をしながらも、外交官らしい如才のない態度を失わずに言いました。私はT氏の姿をながめながら、このやさしそうな人が、あれほどにも夫人に恨まれて居るのかと思うと、何だか、気の毒になって来ました。私は出来るだけのことを致しますと言って、別館の病室に急ぎました。
病室には白い服をまとった看護婦と産婆とが出産の準備を致して居りました。私は患者よりも先に、正面に懸けてある例の絵に目を注ぎました。万が一にも今日は、夫人の予期して居るような、いわば超自然的な現象が見られるかも知れんと思ったからです。夫人は私の姿を見て喜ばしそうな顔をしましたが、唇が少しく紫色になって居りましたから、私はあわてて強心剤を注射しました。