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たまご

卵

夢野 久作

「猟奇」1929(昭和4)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,782 字 · 8 页

青空文庫

三太郎君の幻想が決して三太郎君一人の気の迷いではない。疑いもなく二人の魂がソックリそのまま肉体を脱け出して、毎夜毎夜ここで媾曳をして楽しんでいるのだ……という事が次第にハッキリと三太郎君に意識されて来たのです。そうして、それと同時に、二人がこうして現実の恋を恋し得ないで、魂だけで忍び合って満足をしているのは、決して恋を恐れているのではない。現実の恋から必然的に生まれる「ある結果」を恐れ合っているからだ……という事までも、透きとおるほどハッキリと三太郎君に理解されて来たのでした。

二人が昼間のうちに見合わせる眼付きは、こうしていよいよ冷やかになって行くばかりでした。そのかわりに二人の心は、日が暮れるのを待ちかねてこの地境の黒い土の上で逢う瀬を楽しみ合うのでした。

そのうちに夏が過ぎると、その黒い土の上に、誰が種子を蒔いたともなく、コスモスが高やかに生い茂りました。そうして秋に入ってから、まぶしいほど美しく満開したと思う間もなく今日になって、この出来事が起ったのです。

三太郎君は奇妙な、恍惚とした気持ちになって、その大きな卵をソット抱き上げてみました。