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げんしばくだんざつわ

原子爆弾雑話

中谷 宇吉郎

「文藝春秋」1945(昭和20)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,907 字 · 14 页

青空文庫

今から考えてみれば、あの時それだけの研究費を、既に原子物理学方面の実験を開始している専門家たちの方へ廻してもらった方が、進歩が速かったことであろう。しかし何万円という研究費を毎年出すとなると、やはりその研究所の中で仕事をしなければならないというのが、当時の実情であった。何万円というのは、その研究所としてもかなり多額と考えられていた時代のことである。

当時私の教室では、原子物理学の研究によく使われる或る装置を使って、電気火花の研究をしていた。それで実験技術としては満更縁のない話でもないので、私の所の講師のT君が私の方を辞めて、その研究所へはいって、専心その方面の仕事を始めることになった。

もっともこれは随分無理な話で、英米の世界一流の学者が集まって、金に飽かし鎬を削って研究している方面へT君が一人ではいって行って、その向うが張れるはずはない。それでこういう条件をつけることにした。それは、もともと無理な話であるから、初めから英米の学者と太刀打をさせるつもりでなく、先方の研究の発表を待って、その中の本筋の実験を拾って、こちらでそっくりその真似をさせてもらいたいというのである。