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げんしばくだんざつわ
原子爆弾雑話
中谷 宇吉郎
「文藝春秋」1945(昭和20)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,907 字 · 14 页
一方国際的には、支那事変が漸く本格的な貌を現して来て、今更研究どころではないという風潮がそろそろ国内に漲り出した時期である。それで真先に取止めになったのは、この原子関係の研究であった。折角勢い込んでいたT君は「もう戦時態勢にはいったのだから、そういう研究は止めて、砲金の熱伝導度の測定を始めてくれ」ということで、急に金属物理学の助手に早変りすることになった。これで「私の原子爆弾」の話はおしまいである。誠に飽気ない話である。
ところで人類科学史上未曾有の大事件たる原子爆弾の研究に、こういう企てを試みることすら、いささかドン・キホーテ的であったことが、今度のアメリカの発表でよく分った。T君はいわばいい時にドン・キホーテの役割を免ぜられたものである。と言うのは、もしあの時の将官がそのまま続いて在任され、どんどん研究費を出し、学者の数も増やし、大いに頑張ってみても、我が国ではとても原子爆弾が出来る見込はなかったと私には思われるからである。それは日本には原料たるウラニウムがないとか、ラジュウム源の貯蔵が少いとかいう問題ではない。それは国民一般特に要路の人たちの科学の水準と、今一つは国力の問題とである。