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また、いえ
又、家
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,120 字 · 13 页
H町に、引越したいと云う意志を洩したのは、もう久しい以前からのことである。
「それもよかろうよ。遠いものね」
然し、いよいよその積りで家を見付けにかかると、少くとも母上は、ひどく淋しそうに見えた。不自由で困るだろう、元のようにそう小林さんをやるわけにも行かないから。私の方は一向構わないがね、などと云われる。
彼女の心持は両端とも感じられた。けれども、それかと云って、此那ひどい処で我慢し、余分な疲労をさせては居られない。
Aは、学校の門衛の巡査に心当りを注意して貰うことを頼んだ。自分は毎朝、食後、時事新報の広告欄を見る。時には、「嫁入度」などと云う活字の下を、驚と、好奇心と相半ばした心持で読みなどし乍ら、「貸家、赤坂見附近」と云うような文字でも見つかると、心をあつめて、間数や家賃を読むのである。
始め、片町を見つける頃よりは、余程、貸家は出たらしい。一つは、あの頃の払底につけ込んで、郊外に少しでも土地を持って居る者は、ひどい苦面をしてでも、まるで小屋のような急造家屋を、矢鱈に並べた。当座こそは、いやでも他にないのだから仕方なく入った人も多くあったのだろう。