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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

周平は騙されたような気がした。反感が起ってきた。その為に保子へも妙に口が利けなかった。彼は苛立ってくる心持を懐いて、二階の室に逃げて行くの外はなかった。

然し二階に行っても、保子と隆吉とを置きざりにしてきたことが気にかかって、永く落着けなかった。耳を澄すと、家の中はひっそりとして、軽い雨の音があたりを支配していた。彼は室の中を歩き廻った。狭苦しかった。隣りの書斎へもはいっていった。そしていつのまにか彼は、本箱の抽斗を見い見い歩いていた。そこに吉川の日記がはいってるのだった。悲痛な文字がありありと頭に映じてきた。やり場のない憤激の念に駆られそうな心地がした。

彼は自分の心が恐ろしくなって、外に散歩に出てみた。冷たい雨を含んだ夜が真暗だった。道が泥濘っていた。寂しい空しい心地でまた帰ってくると、自分一人になるのが堪らなく佗しかった。

彼は保子と隆吉との所へ行って、皆が寝るまで黙って其処に坐っていた。海のことなんかを隆吉と話している保子が、時々彼の方へ言葉を向けて、彼の様子を窺うように眺めても、彼はその視線の前に自分自身を投げ出して、うわべを取繕おうとしなかった。