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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

」

「それほどのことじゃないんです。」と周平は答えた。

「じゃあなお云ったって差支ないでしょう。」

「でも今は云いたくありません。」

「そう。」そして保子は一寸間を置いて眉を挙げた。「だけど今にきっと云いたくなるわよ。もうそろそろなりかかってるんじゃないの。」

周平は彼女の顔を眺めた。曇りのない輝いた二つの眼が、じっとこちらを覗いていた。ただ澄みきってるだけで、その底には何にも読み取れなかった。彼は自分の心が慴えてくるのを感じた。それが我ながら腑甲斐なかった。

「もう暫く、一人で考えていたいんです。」と彼は云った。「隆ちゃんの病気も殆んどなおったようですから、下宿に帰ろうかと思っています。」

保子は眼を見張った。

「どうして急にそんなことを云い出すの。横田が帰ってくる迄居るつもりじゃなかったんですか。」

それは保子一人できめてることだった。周平は曾てそんな約束をした覚えはなかった。然し彼は云い逆わなかった。また本当に下宿へ帰るつもりでもなかった。

「居てもいいんですけれど……。」と彼は口籠った。

「よければ居たらいいじゃないの。それに、あなたが帰ったら隆吉が淋しがるわよ。