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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
「井上さん、どうしたの? 用がなければそれっきりとは、随分ひどいわよ。私あなたが来たら、うんと小言を云ってやろうと思ってたのよ。」
然しその眼はやさしい色を浮べて、彼を抱き取っていた。彼は変にちぐはぐな気持で、其処へ坐りながら云った。
「一寸忙しい用があったものですから……。」
「君にだって忙しいことがあるのかい?」と庭の方から声がした。
横田が庭の中に屈んで、水を半分ばかり張った大きな空の蓮鉢を眺めていた。周平はかすかな驚きを覚えた。それを自ら押し隠して云った。
「もうお帰りなすったんですか。」
「ああ二三日前に。」と横田は答えた。それから急に調子を変えた。「留守中はいろいろ有難う。退屈だったろうね。」
「いいえ。」
次に何か云おうとした時、彼は頬の筋肉がぴくぴく震えるのを覚えた。見えない位に下唇を噛んで、気持を捨鉢な方へ転換して、軽く息をついた。
「あなたに見せたいものがあるのよ。」と保子は云った。「何だかあててごらんなさい。……まあ当りっこはないけれど。」
少しの曇りをも帯びない露な眼付が、彼の方を覗き込んでいた。
「だし……」ぬけに、と云おうとして彼は言葉を途切らした。