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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

お清の言葉を本当だとすれば、そういう風に自分との関係を竹内に伝えられた以上は、今後このままでは済みそうに思えなかった。一時の意地張りからとは云えないものが感ぜられてきた。そして彼は、一種の甘い心の動きと矜りとを禁じ得なかった。それが一転して気遣わしい不安となった。彼は竹内のことを考え、次に保子のことを考えた。然しお清から来る魅惑の方が更に強かった。それに抵抗しようとしても、ともすると足が滑りそうだった。縋るべきものはただ一つの問題のみだった。彼は愈々時機が来たのを感じた。

電車通りへ出た時、お清は一寸足を止めた。彼はそれに構わず、黙って通りを向うへ横切った。それからすぐに不忍池の端に出た。

「もう活動や寄席も遅いわね。」

その言葉が彼には、何かを促すように聞き做された。

「一寸話があるんだが、も少し歩かない?」と彼は云った。

大きく見開いた眼でじっと見られたのを、彼は上から押被せた。

「もう疲れたの。」

「いいえ、歩くわ。……どんな話?」

彼は何とも答えないで、云い出すべき言葉を心の中で考えながら、池の岸に沿ってゆっくり足を運んだ。彼女も彼と肩を並べてついてきた。