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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
それよりも、今こうして彼女と向き合って坐ってることが、先刻からのことと、全く飛び離れた世界に在るような気がした。
眉間に大きな黒子のある首の短い女中が、二三の料理や寄せ鍋の道具を運んできた。
「私がしますからよござんすよ。」
お清はそう云って女中を追いやった。
器用な手附で餉台の上や鍋の中を整えてる彼女の姿を、周平は不思議な気持で眺めた。痩せ形の顔や腰に比較して、頸から肩から胸へかけ、わりに厚ぼったい肉付があるのに、一寸眼を惹かされた。それに自ら気が付くと、急いで眼を外らしながら、続けざまに杯を重ねた。
「あら、そんなに急に飲むと酔っちゃうわよ。」
それでも彼女は、彼の杯を少しも空のままにしておかなかった。そしてまた同じくらいに、自分の杯へも手の銚子を持っていった。
「私あなたとこんな処へ来ようとは思わなかったわ。」
「僕も思わなかったよ。」
軽く受けてじっと眼を見据えてる彼の方へ、彼女は俄に真顔で向き直ってきた。
「井上さん、先刻の高井……英子とかって人ね、あなたはどうして私をそうじゃないかと思ったの。」
「ただそんな気がしたからさ。」
「嘘仰しゃいよ。」
睨めるようにした彼女の眼付が、保子のとそっくりな閃きを見せた。