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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

三十八

悪夢に似た呪わしい気持だった。周平は自分の心の向う所に迷った。そしてその昏迷のうちに、半ば自ら進んで、捨鉢に踏み出して行こうとした。然し、昼の明るみは彼を引止めてくれた。十一月から十二月の初めにかけて、わりに暖かい晴々とした日が続いた。高く冴えきってる空が、木々の梢や屋根に流れる黄色い日の光りが、彼の心を冷かに醒めさした。彼は涙ぐましいほど引き緊った心で、而し、救いの手を待つような落着いた心で、毎週月曜日と、それから他の日にも時々、横田の家へ行った。

保子は日当りのいい縁側近くで、雑誌を読んでいたり、正月のための縫物をしていたりした。周平はその方へ一寸挨拶をしたきりで、黙って火鉢の上にかじりついた。火箸の先で灰の中をかき廻しながら、身をも心をも彼女の前に投げ出したような気持になっていた。

「井上さん、」と保子は静かな声で云った、「あなたくらい寒がりはないわよ。いつも火鉢にかじりついていて、そんなに寒いんですか。」

「ええ。私は寒さが一番厭なんです。」

「そう。じゃあ今に火燵を拵えてあげるわ。」

周平は顔を挙げて、針の手先から眼を離さないでいる彼女の方を眺めた。