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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

自分の踏み出し方によって、どうにでもなりそうだった。――保子の方は、寂寞たる苦しい生活のうちに、自分が知らず識らず縋りついていった唯一の慰安だった。涙ぐましいしみじみとした感情で自分を包んでくれる、大きな欽慕の対象だった。強い愛の焔が時々閃いたけれど、それは何処までも至純だった。――が、その二つが一つに綯われて、深い渦巻きを拵えてしまった。どうしたらいいか、自分でも分らなくなっていたのだ。暗澹たる苦闘を続けていたのだ。

それを……。

彼は云い知れぬ苛立ちを感じた。復讐とも反抗ともつかない感情が、心の底から湧き上ってきた。このままでは済まされなかった。何物かにぶつかっていって、思うさま殴りつけ蹴飛し踏みにじりたかった。

彼は長い間、何処を通ってるかも自ら知らないで歩き続けた。寒さが、ひしひしと迫ってくるのが、なお彼の気持を悲痛な色に染めていった。

ふと気が付くと、彼は驚いて足を止めた。見馴れた建物がすぐ前に在った。塔のような三階が、附近の軒並から高く夜の空に聳えていた。二階の窓には褐色の窓掛が引かれて、灯火は消えていた。然し、内側に白い布を垂れた入口の扉には、ぴたりと閉ってる隙間から、明るい光りがかすかに洩れていた。