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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

それをつきぬけて晴々とした所へ出なければ、もはや息がつけない気がした。余儀ない破目から竹内を殴ることも、今は自分の生活を転回させるに必要な槓杆のように感ぜられた。単なる復讐心や卑怯な女々しい感情からではなく、公怨と無条件に腕力を肯定出来る気がした。思いつめてると頭がくらくらとした。知らず識らず保子の手紙が胸に浮んで涙が湧いてくるのを、彼は他人のような気持でぼんやり而も力無く見戍った。

「どうしたのよ、井上さん、しっかりなさいな」

その声に喫驚して眼を挙げると、お清がすぐ側に坐って覗き込んでいた。酒に熱った頬と冷たく曇ってる額との間から、うち許しながら敵意ある露な眼が輝いていた。

「水を一杯くれよ。」と周平は云った。

彼は身を起した。コップに水をついできたお清を引寄せて、膝の上に坐らした。そのずっしりとした重みを感じながら、一息にコップを飲み干した。

「井上、」と誰かが呼んだ、「怪しげな所を見せないで、まあこっちへ来いよ。」

周平はお清を押しのけ、心を決して煖爐の方へ行った。

「水は早いぜ。も少し飲め」

竹内が立ち上って杯をさしつけてきた。

周平はその顔をじっと見返した。