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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
保子の前へも出たくなかった。頭の中に描いていた幻が、現在の保子の姿に蔽われつくして、ただやるせない憧憬の気持のみが、彼のうちに残されていた。その気持がどういう方向を取るか分らないのを考えると、彼は云い知れぬ胸の戦きを感じた。と共に、保子に対して無力である自分自身が、不安になり恐ろしくなった。
それでも、彼はいつのまにか家へ帰ってきた。保子は隆吉の枕頭にぽつねんと坐っていた。彼がはいっていくと顔を挙げた。
「早かったわね。……私慌ててたものだから、あなたまで騒がしてお気の毒ね。御免なさい……何だかがっかりしてしまったわ。」
そう云って彼女は、静かな無心の眼付で周平を見た。
隆吉はすやすやと眠っていた。
「お食事の支度が出来ました。」
そう女中が云って来た時、保子は床柱に軽く上半身をもたせかけて、膝をくずしながら大儀そうに坐っていた。その膝を重たそうに引きずって、隆吉の枕頭に匐い寄っていき、一寸その額に掌をあててみ、その顔をじっと眺め、それから立ち上った。
食事の間、女中が隆吉の側についてることになった。食卓の上には麦酒が一本のっていた。
「私も一杯飲んでみよう。