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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
「井上さん、お起きなさいよ。」
「ええ。」と周平は思わず答えてしまった。
一寸間が置かれた。また保子の声がした。
「いやだわね、布団を被ってしまって。加減でも悪いんですか。」
布団が少し引きのけられた。周平はされるままに任して、顔を横向けながらちらと保子の方を見上げた。
「あら、」と保子は叫んだ、「泣いてるのね、どうしたの。」
その言葉で周平は初めて、自分の眼や頬に涙がたまってるのを気づいた。するとまた、後から涙が出て来るような気がした。咄嗟に寝間着の袖で眼を押し拭いながら、じっと保子の顔を眺めた。その起きたばかりの清い素肌の顔の中には、黒目がちの澄みきった眼が、朝の光りを受けて静かな輝きを見せていた。それがちらと瞬いたかと思うと、刺すような鋭い光りに変った。
「どうしたというの、え?」
眉根がぴくりと動いて、彼女の顔は妙に冴え返った。それがまざまざと、周平の眼の前に寄せられてきた。周平は眼を外らした。
「いやな夢を見たんです。」と彼は答えた。
「嘘仰しゃいよ。いやな夢に泣く人があるものですか。」
「いやな悲しい夢です。」
保子は何とも云わなかった。然しその眼は嘘仰しゃい! とくり返していた。