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おじ

叔父

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,585 字 · 24 页

青空文庫

」

「そんなところがあったかな、東京の近くに……。」

それきり喜代子は黙り込んで、どうにか菜の花を生けてしまった。

その室咲きの余り匂わない菜の花を見い見い、中野さんは大きな紫檀の机に向って、いい気持で、調べ物の続きをやりだした。

喜代子は向うの室で、小学校に通ってる末の子供達の相手になって、その試験準備をみてやっていたが、暫くすると、勉強の方はそっちのけにして、皆できゃっきゃっと遊び初めた。年上の方の娘までそれに加った。騒々しい笑い声の間々に、喜代子の澄んだ朗かな声が高く響いた。

中野さんは調べ物に気がはいらなくなって、日向の縁側に出て、ぼんやり庭の方を見ていた。植込の落葉樹の芽がふくらんで、地面は湿気を帯びて黒々としていた。

そこにひょっこり喜代子が出て来た。

「今日はばかに賑かだね。何か嬉しいことでもあるらしいね。」

「ええ……。」

言葉尻を濁してから、喜代子はふいに真面目な顔付になった。二つも三つも年が上のようになった。

「あたし……叔母さまが生きていらっしゃるとほんとにいいんだけれど……。」

「え、叔母さまが……。」

中野さんはびくりとして、喜代子の顔をみつめた。