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とりかじ

取舵

泉 鏡花

「太陽 創刊号」

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,453 字 · 15 页

青空文庫

俵の数は約二百俵、五十石内外の米穀なれば、機関室も甲板の空処も、隙間なきまでに積みたる重量のために、船体はやや傾斜を来して、吃水は著しく深くなりぬ。

俵はほとんど船室の出入口をも密封したれば、さらぬだに鬱燠たる室内は、空気の流通を礙げられて、窖廩はついに蒸風呂となりぬ。婦女等は苦悶に苦悶を重ねて、人心地を覚えざるもありき。

睡りたるか、覚めたるか、身動きもせで臥したりし盲人はやにわに起上りて、

「はてな、はてな。」と首を傾けつつ、物を索むる気色なりき。側に在るは、さばかり打悩める婦女のみなりければ、渠の壁訴訟はついに取挙げられざりき。盲人は本意無げに呟けり。

「はてな、小用場はどこかなあ。」

なお応ずる者のあらざりければ、渠は困じ果てたる面色にてしばらく黙せしが、やがて臆したる声音にて、

「はい、もし、誠に申兼ねましたが、小用場はどこでございましょうかなあ。」

渠は頸を延べ、耳を欹てて誨を俟てり。答うる者はあらで、婦女の呻く声のみ微々と聞えつ。

渠は居去りつつ捜寄れば、袂ありて手頭に触れぬ。

「どうも、はや御面倒でございますが、小用場をお教えなすって下さいまし。