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とりかえしものがたり

取返し物語

岡本 かの子

「大法輪」1934(昭和9)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,882 字 · 28 页

青空文庫

(再び恥かし気な様子)

蓮如『源兵衛はやがて御堂へ来る手筈で、此の道を来ることになっている。わしは僧侶のことじゃ。恋の手引きは出来ぬ。しかし、ひとり手に此処へ通って来るものを強いて知らさずに置く必要もあるまい。やがて来るわ。まあ、よいようにしなされ。わしはこれで訣れるとしよう』

おくみ『何から何まで御心くばり、有難うて涙がこぼれます』

蓮如『では、まめに暮しなさい』

(蓮如行きかける。供の竹原の幸子坊後より続く。蓮如、幸子坊の持った松明に目をつけ)

蓮如『これこれ幸子坊』

幸子坊『はい』

蓮如『今夜は月明り、松明は要るまい。その辺に捨てなさい。序に火打袋も』

幸子坊円『滅相な。空も大分曇って参りました。闇に松明は離せませぬ』

蓮如『いや、月明りじゃ。蟻の穴も数えられるばかりの月明りじゃ。松明は要らぬと申すに』

幸子坊『でも』

蓮如(おくみの方を目配せつつ)『幸子坊、師の命を背かるるか。えい、松明は捨ていと申すに』

幸子坊(漸く意味がのみ込めて)『は、は、は、成程月明りでござった。これは飛んだ失礼、では捨てまするでござりまする』

(幸子坊、おくみの方へ松明と火打袋を投げやる。