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とりかえしものがたり

取返し物語

岡本 かの子

「大法輪」1934(昭和9)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,882 字 · 28 页

青空文庫

(おくみ、起上って合掌)

おくみ『お慈悲は身に染みて身体が浮くようでございます。然しその御名号が唱えられぬばっかりに、一度お上人さまにお目にかかってお教えを頂こうと存じましてお探し申して居りました』

蓮如『ふむ、それは気の毒とも何ともはや、さては信心退転でもいたしたか』

おくみ『退転どころではござりませぬ。父母に死なれたたった一人の孤児。お念仏は父母の遺身でもあればまた、わたくしの浮世の身の守りでもござります。どうして唱えずに居られましょう。それに、わたくしが引取られました奉公先の御主人は、大の念仏嫌い、南無と言うても、もう眼くじら立て、舌打ちなされます。身を退こうにも行先は無し。御主様に育ての恩はあり、さればとてご唱名は欠かしたくなし、義理と法に板挟みの揚句が、御念仏を唱えとうてなりませぬ時には「忘れまいぞやあのことを」「忘れまいぞやあのことを」かように申して阿弥陀さまへの申訳、自分の心への誓いにして居りまする。あのことを、と申しますのは勿論信心のことでございます。然しそう唱えながらも斯ういう空言を申さねばならぬ身の因果、女の罪障、恐ろしゅう思われてなりませぬ。