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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

彼は、さっと蒼白くなった顔の中で、二つの光の失せた眼を瞠り、訝るように、傍に立っている、天につかえそうな背高い戦士を見上げた。急に、頭の中に前後の関係がはっきり写った。スーラーブは、絶望して唸った。

「自分は刺された。死ぬ。ああ、ああ、血が流れる。父に会わずに殺されたか。何もかも駄目だ」

世界じゅうが、鈍い色の不愉快な塊になってずんずん彼方へ後じさって行くように感じた。非常に孤りぽっちという寂しさがスーラーブを苦しめた。心も体も大きな波のうねりにのって漂っているようだ。時々何かにぶつかるように疼(いた)みが彼の意識をはっきりさせたスーラーブは、大切な云うべきことがあるのを感じ、当もなく起き上ろうとしながら、

「ルスタム……ルスタム!」

と嗄がれた声で呼んだ。

傍に立ち、義務を果した安心の後、沈んだ気持で瀕死の若者を瞰下していたルスタムは、どきりとして一歩足を踏み出した。同時にもう二度と若者が立てないほど、自分が刺したのだという意識が、罪のように厳かな感じを伴って彼の頭に閃いた。ルスタムは注意深くこごみかかって云った。

「ルスタムがどうした?」

きのうも一昨日も、いざという時になると、この若者が自分の名を口にした記憶が、新な戦慄をルスタムに与えた。