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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

ターミナは云いよどみ、何ともいえず趣の深い、仄かな含羞(はにかみ)の色を口辺に浮べた。

「――十九年昔の今日、卿の父上がこの城へ来られたのです」

スーラーブは、厳粛な心持になって問ねた。

「今、その人は、どうしているのです? 生きているのですか、死んでしまったのですか?」

「生きておられるでしょう。生きておられることを祈ります。あれほどの方が、死なれて噂の伝わらない筈はない」

「そんなひとなのですか」

彼は、見えない、偉(おお)きな何ものかが、心に迫って来るのを覚えた。

「――誰です?」

「…………」

「ツランの人ですか?」

「ツラン人ではありません」

「まさか、この領内の者ではあるまい。――」

「イランの人です。卿の父上は……」

ターミナは、大切な守りの神名でも告げるように、恭しく、スーラーブの耳に囁いた。

「卿の父上は、イランのルスタム殿です」

スーラーブは、始めて自分が、天の戦士といわれている英雄の子であることを知った。ルスタムの名を聞いて畏れない者は、人でない。いや、アザンデランの森の獅子は、ルスタムの駒の蹄の音を聞いて、六町先から逃げたとさえいわれている。