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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

ツラン人はそれにつれ、素早く体を動かしたが、ルスタムが、一足ぐっと踏止るや傍をすりぬけ、一気に高地を降り切ろうとするのを知ると、物をも云わず、武器を振って突かかって来た。短剣の切先がルスタムの外衣に触れるのと、彼の棍棒が真向からツラン人の頭に落ちるのと同時であった。ツラン人はぽろりと短剣を落しよろよろ前へのめりかかると、顔を下にしてぱったり倒れた。拡げた手や脚が痙攣した。ルスタムは、それを瞰下し陰気に肩をゆりあげた。彼は、棍棒を傍の草の中に投すてた。心持は益々滅入り込んだ。彼は、大股に、とっとっ、とっとっと高地を降り、冴えない、うんざりした気持で、イランの陣へ戻った。

三十三

夜が白々明け始ると、ツランの陣では、彼方此方から、鳥が塒(ねぐら)を立つような、小さい活気あるざわめきが起った。二人の兵卒が、前晩喋り込んで一緒に眠った仲間の処から自分達の部隊につくため、高地を北から南の方へ歩いて来た。軽い風が東雲(しののめ)の空から吹き、明け切らない草の露が、彼等の足を、ぬらした。上天気になるらしい。日が昇りきれば、今朝は始めてイラン軍との手合せがあるので、二人の兵は、申し合せたように、遠い眼界の中にぼんやり並んでいる敵陣の天幕を眺めた。