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ふるきミニエチュア
古き小画
宮本 百合子
「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页
三十五
間もなく、乾ききった厚い木片がぶつかり合うような、カタカタという音が、スーラーブの背後でした。
「連れて参りました」捕虜の若いイラン人は、微塵(みじん)の愛嬌もない表情で、振返ったスーラーブを見た。纏布を半分ずらせて、頭の負傷を包んでいた。横から、短く髪の毛が延びかかった頭が覗いている様子、薄い、汚れ切った上衣が肩で破れて体にかかっている有様。立派な体格で、足枷さえそんなに惨めなものらしくは見えなかった。眇(すがめ)の男は、捕虜の穢らしい滑稽さを誇張するように、傍から相手の腕をつっつき、片言のイラン訛で云った。
「大将、わが大将、――礼」そして、自分のツランの礼の形をして見せた。
スーラーブは、厳しく手を振って、眇の男を追のけた。彼は先に立って歩み出した。
「此方に来い」彼等は、足枷の許す緩い歩調で高地の出端まで来た。其処からは、朝の光の海の裡に一目でイラン方の陣が瞰下せた。幾つもの天幕が起伏した間に平地の上を行き来している兵卒の姿までくッきり見えた。スーラーブは、暫く黙って眺めた後、捕虜に云った。
「卿に尋きたいのは、どの天幕が誰のかということだ。