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こぼく
古木
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,648 字 · 24 页
震災で市街の大部分は焦土となり、莫大な死傷者が生じ、不安恐慌の気が漲り、生活の方途が混乱を来している際、巳之助は、救恤と復興との政治機関に働きながら、一方、梟の剥製を探し廻りました。やがて、幸にもそれが見つかりました。神代杉の細工枝にしっかりと取りつけたもので、羽毛が放射状に生えてる顔盤の中の真丸な眼が、生きてるように輝いていました。製作者自慢の義眼でした。
それを貰うと、幹夫は家中を駆けまわって喜びました。
椎の木の梟はいつしか忘れられ、剥製の梟が幹夫の最愛の友となりました。
そうした幹夫も、今ではもう三十歳になろうとしています。
――彼は椎の木のことを、何と思っているかしら。
柴田巳之助はそう考えて、自分の気力の衰えをちらと胸に浮べました。
そしてそれを押し切るようにして、幹夫を枕頭に呼びました。
「あの椎の木だがね、あれはもう生き返るまい。」
「ええ、とてもだめでしょう。」と幹夫は平然と答えました。
「それでは、伐ろうじゃないか。」
「そうですね、私もそう思っていました。あれがずいぶん火を防いでくれましたから、家のためには役立ったとも言えましょうが、どうせ枯れてしまうとすれば、伐るより外はないでしょう。