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ねむのきのかげ

合歓木の蔭

山本 周五郎

「新読物」交友社 、1948(昭和23)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,740 字 · 27 页

青空文庫

奈尾はふしぎな戦慄を感じた。その言葉のずっと奥のほうに、さっきの垣根の外の声が隠れているように思えたのだ。もちろんそんなことがあるはずはない、奈尾はええとうなずいた。

「お待ちしていましたの、どうぞおつれくださいまし」

「そんな薄着でいいのかな」半三郎は包むような眼で見た、「もうすぐ夜露がおりますよ」

「だって、そんなに長くはおりませんわ」

奈尾はとつぜん浮き浮きした声になり、つと自分の手を半三郎の腕にからんだ。

「さあまいりましょう、きれいな月だわ」

夜宴の席は奈尾を迎えてにぎやかになった。ばあやも盃を持たせられ、藤巻三之助が小謡をうたったりした。奈尾は絶えず空想と現実とのあいだをたゆたい、思いがけないときに声をあげて笑った。

「お庭に合歓木を植えましょう、ねえ」奈尾はこう半三郎にささやいた。

「そして花の咲くころにはわたくしたちもこのように宴げを催しましょう、わたくしたちがお爺さんになりお婆さんになったら、誰も招かずに二人だけで静かに宴げをいたしましょう、――ねえ」

「お望みならすぐにそうします」半三郎はそっと笑った、「けれどもまだ結婚の式もあげないうちから、爺さん婆さんの話は早すぎるでしょう」