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ねむのきのかげ
合歓木の蔭
山本 周五郎
「新読物」交友社 、1948(昭和23)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,740 字 · 27 页
岩田半三郎の顔も想像したが、どれもいま見られている感じとはぴったりしない、その人たちなら見るにしてももっと違った見ようをするであろう、たしかに知らない人である、そしてそれは無礼なことなのだが、奈尾には少しも怒りの感情が起こらなかった。むしろあやされるような秘やかな歓びが胸にあふれて、十七になる今日までかつて知らなかった一種のするどい快楽のような感じにとらえられるのであった。
安宅が終わると席がざわざわとくずれだした。多くの人たちが手洗いに立ち、どの席でもにぎやかに弁当をひらいた。奈尾はそっと振り向いて、このあたりと思うところを眼で捜した、するとこちらへ会釈をする者があった、ちょっとどきっとしたが、それは岩田半三郎であった。兄の市蔵や藤巻三之助や池田伊兵衛など、いつもの仲間が四五人いっしょにいた。奈尾は半三郎の会釈を気づかない風によそおってそらしてしまった。
――たしかに、あの人たちではない。
能はそれから二番あって、婦人たちはお城をさがることになった。それからは賜餐の宴げが張られるのである。持ち物を始末して叔母といっしょに席を出た。萩のお廊下は往来する人で混雑し、中ノ口へ出るまでは叔母とはぐれそうになったこともある。